二つの(スポーツ?)ノンフィクション

 ボルヘスの「伝奇集」を読みながら、実はこんな本も読んでいた。
 一つは「Gファイル・長島茂雄と黒衣の参謀」と言う本だ。1994年から97年の間、ジャイアンツの監督になった長嶋茂雄の監督補佐という裏方として働いたある人物の記録である。僕は山際淳司の「江夏の21球」を読んで以来、スポーツノンフィクションというジャンルが好きになっていた。この「Gファイル」も「96年のメークドラマの裏には何があったか」という興味から読んでみたいと思った。それで、一応大変面白く読んだのだが、当初の思いとは違い、「Gファイル」は純粋なスポーツノンフィクションとは言い難い話だった。この本の主役である「参謀」が、長島茂雄の下で、読売ジャイアンツを相手に「組織改革」を行おうとした企業系ドキュメント、戦ームの情報収集はもちろん、同じチームの選手、コーチ、スタッフなどのキャラクター等まで、調査していたらしい。この本では実際に野球をする選手については、将棋の駒みたいな扱いだ。まあ、「参謀」が主役なのだから仕方ないかもしれないが・・・。この「参謀」の野村ヤクルトに対する分析は興味深い。とはいえ、僕は長嶋茂雄にも、読売ジャイアンツにも特に愛着はないからいいけれど、この本の中の彼らを見たら、長島ファン、ジャイアンツファンはかなりショックを受けるのではないだろうか。今は疎遠になってしまったが、僕も熱狂的な長島ファンの友人がいる。アイツがこれよんだらどう思うだろう。
 それから、「Gファイル」については、こんなことを感じたのは僕だけだろうか、と思っていることがある。この本の文体というか日本語について、うまくいえないけど違和感を感じた。たとえば、藤田監督が就任していた時期を「藤田政権」とか長島茂雄監督の場合は「長島体制」とか。「真の戦闘集団としての巨人軍の指導者」とか。なんというかね、微妙に過剰なところがヘンでおもしろいかも。

 もう一つは、職場の人が貸してくれた「オシムの言葉」だ。「Gファイル」と違って屈折してなくて、オシムという人物を素直に紹介している。まあ、おもしろいことは全部オシムがしゃべってるのだから、それで十分なのだがね。ただ、この本の中にある、ユーゴ連邦崩壊と重なる、オシムユーゴスラビア代表監督時代の話は読んでいて、こっちも辛い気持ちになった。特に「第4章サラエボ包囲戦」の108ページでは、本当に涙が出てしまった。

長嶋茂雄と黒衣の参謀 Gファイル

長嶋茂雄と黒衣の参謀 Gファイル