読書には難しい日々

 仕事が少々忙しくなってきた。あまり読書をしない人達と仕事をするのも疲れるが、さらに残業なんてしてると疲れも倍増である。この1文を書いたところで、今ふと自分の書いた「あまり読書をしない人達と仕事をするのも疲れる」というところが気になった。僕は「あまり読書をしない人」を非難しているわけではない。これでも大人なので、現代の日本でサラリーマンには読書を楽しむ機会がないのは分かっているつもりだ。それに娯楽ならば他にも色々あるし、本を読まなくても十分楽しく生きられる事を知っている。ただ僕が疲れるのは、そういう人達と話題を合わせねばならないときだ。フィッツジェラルドスタニスワフ・レムなどは読まない人も多いから、こちらから話題にすることもないが、村上春樹すらも読まない人、本をあまり買わない人など何を僕は話せばいいのか・・・そういう職場でのコミュニケーションに気を使って疲れれるのだ。
 それに僕は今、ボルヘスの次の本として、フッサールの「ブリタニカ草稿」を通勤中の電車の中で読んでいる。仕事で疲れ、人付き合いに疲れ、そしてこの本だ。この本を読むと、脳が肉離れを起こしそうな感覚になる。
 現在、様々な思想書が出版されている。いろいろと調べていくうちに、現代思想とに多大な影響を与えたのが「現象学」らしいということがわかった。そして「現象学」の出発点はフッサールという哲学者らしいということもわかってきた。「ブリタニカ草稿」は、「現象学」という項目を追加しようとしていたブリタニカという百科事典のために、フッサールが書いたものだ。「現象学創始者が書いた、創始者による初心者むけの入門書として位置づけされている。この本には、最終稿の他、第1稿から第3稿まで掲載されている。僕はこの最終稿を読めば「現象学」の基礎知識を得ることが出来ると思っていた。

 で、実際この本を読んでみたら、スタニスワフ・レムボルヘスに匹敵するぐらい大変だった。まあこれらをサクサクと読み理解ができる頭があれば、こんな人生を送ってるわけがない。
 志向的体験、形而上、超越論的主観性、アプリオリ独断論的解明、自我共同体、エポケー、そのような見慣れない言葉が羅列された本は、正直なところ通勤電車の中で読むような本ではないことは確か。読んだ瞬間から脳から消えてしまうような難語が並ぶ本は、もっとゆったりと読むべきだろう。とはいえ、せめて読書中は集中しようと、僕はこの本を小声で音読するなど、努力はしていた。通勤中この本を読んでいる姿の僕は結構不気味だったかもしれない。
 現象学的還元とは一体何なのだろう?

 というわけで、仕事、人間関係、そしてフッサールによって、大変ハードな週末だった。

ブリタニカ草稿 (ちくま学芸文庫)

ブリタニカ草稿 (ちくま学芸文庫)