フットボール紀行という可能性

 このところ仕事が忙しい。たまに早く帰れた日はジムで泳ぐことを優先しているので、ブログを書くヒマがない。それでも通勤電車や昼休みなどの空いた時間に本を読む。先週は「フーコーコレクション1」を読んでいたが、実は職場の人からある本を先週借りたことをすっかり忘れていて、それを月曜になって慌てて読み始めた。何せ常日頃お世話になってる人から「Yu-goさんならこの本の価値がわかるだろう」といって貸してくれた本だ。それが木村元彦の「蹴る群れ」だ。
 
 この本は「世界の様々な地域に住む人達のサッカーに関する体験談」を集めたものだ。でも集めようと思えばそれはきっと星の数ほどあるだろう。実は僕にだってある。ゴールキーパーとして当時エースストライカーのシュートを止めたことがある。1度だけどFWのポジションで、ドリブルからDFを振り切り、ペナルティエリアの外から豪快なミドルシュートをきめたことがある。どちらも小6の体育の授業でやったサッカーで、実力というより偶然の賜物でしかないけれど、それから30年以上立った今でも、そのゴールの瞬間の記憶はハッキリと残っている。たかが体育の授業のサッカーのゴールでも、それを決めたときの感動はなかなかのものだ。サッカーは面白い。本当に面白い。
 木村元彦の「蹴る群れ」に登場する人たちの話は本当に凄まじい。戦火の中で、独裁政権の下で、革命の中で、亡命者として、移民という宿命の中で、サッカーをし続けた、また今でもし続けているだろう人たち。その地域はイラク、ヨルダン、ルーマニアアルメニア、旧ユーゴ、南アフリカ、また日本国内などなど様々だ。僕はこの本を読みながら、ちょっと不思議な気分になった。国や住む場所、宗教や言葉も違うのだが、僕は彼らと繋がっているのだ。「サッカーは面白い」という部分で。ロナウジーニョやカカとかクリスチャン・ロナウドもいいけれど、この本に出てくるような苦境の中でも前向きな気持ちを失わずサッカーに取り組んでいる人たちのことも応援したくなる。中学高校ぐらいの人たちにも読んでほしい本。世界は広い。本当に。

 いささか詰め込みすぎの感はあるけど、日本や世界の様々な場所への精力的な取材には正直頭が下がる。これを読んでいてもう少し「対象に対する表現」を掘り下げれば「フットボール紀行」という文芸の域の可能性も感じた。いかかでしょう?

蹴る群れ

蹴る群れ