ハインラインにまつわる長話

 今日はハインラインの「宇宙の戦士」について語ろうと思っている。これを読む切っ掛けは「映画秘宝2月号」のポール・ヴァーホーヴェンについてのコラムを読んだからだ。

ポール・ヴァーホーヴェンの話

 ヴァーホーヴェンは僕にとって気になる監督の一人だ。彼のことを知ったのは、今はカリフォルニア州知事となったアーノルド・シュワルツネガー主演の「トータル・リーコール」だ。この映画の中で、街の中でシュワルツネガー扮する主役が敵に狙われ、そのまま激しい銃撃戦となる場面があるのだが、その時たまたま前に立っていたために撃たれてしまって蜂の巣状態となった男を、なんとシュワルツネガーはそのまま盾にして戦うところが、とても鮮明に覚えている。その死体の生々しさに作り手のこだわりが強く感じられて、「もしかしたらこの映画の監督は、えげつない趣味を持っているかも」と思っていた。その後、この映画監督はオランダ出身で、幼少のころが第2次世界大戦中で、日常的に死体を見て育ったらしい。なんのインタビューか忘れたが、その体験は「平和はつまらない」と感じたほどの影響があったと語っていたのを記憶している。まあそんな幼児体験の興奮を映画製作の中で再現しているのかもしれない。
 その後、ヴァーホーヴェンは大ヒット作の「氷の微笑」、ラスベガスのダンサーを描いた「ショーガール」、そして「スターシップ・トゥルーパーズ」を監督する。氷の微笑は大成功だったのだが、後の2作は興行的に大失敗だったらしい。「ショーガール」にいたっては、ワースト映画賞として有名なラジー賞を受賞している。ラジー賞は普通、映画関係者は授賞式に出席しないのだが、ヴァーホーヴェンは自ら出向いてトロフィーを受け取ったらしい。でもね、僕はこの映画を深夜時間帯におそらくケーブルTVだったと思うのだがタイトル、監督も知らないまま全くの偶然に観たのだが、映像的には凄く力がみなぎっていて、特にダンスシーンはなかなか見事で、ホントに呆気にとられて最後まで観てしまうほどの、物凄い吸引力のある映画だった。若いダンサーがストリップクラブからラスベガス一番のショーダンサーまでに成功するというストーリなんだが、何故これほど豪華絢爛に?という疑問は残ったけど、ヴァーホーヴェンが監督と知った時なんか納得してしまった。
 それで「スターシップ・トゥルーパーズ」なのだが、この映画は昆虫生物と人間との戦いを描いたSFX映画だ。昆虫達のとの戦いの中で死んでいく人間の兵士の死に様の描きかたはヴァーホーベンらしいな、って感じで、本当にバッサリとやられて血みどろにズタズタにされていく場面が「これでもか」と描かれている。でも不思議と残酷という感じがあまりしない。あまりにあっけなくズタズタにされていくので、リアルを通り超して戯画的に思えて悲壮感が無い。「プライベート・ライアン」の戦闘シーンの方がリアルで残酷に思えるくらいだ。また映画の中では、未来の人間達は地球連邦的な1つの軍事国家体制を作り、その軍隊も全くの男女平等で共に戦う。兵士達が皆でシャワーを浴びるシーンがあるのだが、「未来の人々は卑猥な感情すらもコントロールする」と語ってるかのように、男女の兵士が仕切りもないシャワールームでワイワイ騒ぎながら仲良く裸で浴びてる場面になっている。また面白いのが、映画の途中でその連邦政府による、「共に戦おう」という戦意高揚目的の公共CMが流れたりする。戦火の中での友情、恋愛などをそれらしく描いているのだが、全体的に「スターシップ・トゥルーパーズ」は人間の描き方が大変「薄い」。なんというか、「プライベート・ライアン」とか「スター・ウォーズ」ともすれば「ガンダム」のような、戦争という状況から生まれる「ドラマ」性を、おちょくっているように思えた。
 映画秘宝2月号の記事によれば、この「スターシップ・トゥルーパーズ」は批評家から嫌われ、興行的にも失敗したらしい。少し意外な気がした。

ハインラインの「宇宙の戦士」の話

 ハインラインの「宇宙の戦士」は、なんとこの映画「スターシップ・トゥルーパーズ」の原作だ。映画は「戦争ドラマ」を戯画化したパロディなのだが、原作は映画秘宝2月号の記事によれば、原作はかなり軍隊賛美小説らしい。この話を読んで実はかなりビックリした。
 ハインラインのことは実は1年ほど前に会社のSF小説好きな後輩から教えてもらうまで全然知らなかった。ハインラインは、アイザック・アシモフや、アーサー・C・クラークとならぶSF界の大御所的存在らしい。
 僕は後輩の薦めに従って彼の代表作の「夏の扉」を読んだのだが、これはタイムマシンと冷凍睡眠を題材にした時間を超えた物語なのだが、この小説がいいところはそのSF的な題材が主役ではなく、僕らとあまり変わらない人間のある意味青春小説のような趣きのあるストーリーで、単なるSF小説としてはくくれない魅力ある作品だった。
そんな作品を書く人が、軍隊賛美の小説を書いているなんて想像出来なくてね。一体どのような話なのだろうと読んでみたくなって、図書館で予約を入れてしまった。

 読んでみたところ、「宇宙の戦士」は地球人とクモ型宇宙人との戦争物語なのだが、その物語の大半は連邦軍の機動歩兵に志願した若者の目から見た軍事訓練生活が描かれている。その過程で未来の社会について説明されていくのだが、未来の地球は軍役を務めた者のみが選挙権を持つ、軍隊主導ユートピアとして描いている。なぜそれがユートピアかというと、軍役経験者は「個人的利益に優先して集団の福祉を考え実行するという困難な職務を自発的におこなう人間」としていて、その人々が責任をもって社会的正義を遂行する支配階級となって政治を担っているからとしている。それには僕は賛同できないものの、結構今の人たちはこの小説を素直に賛同してしまうかもしれないなあとも思った。映画は戦争を茶化しているが、この本は戦争をスポーツ根性物語的な青春小説のように描いている。パロディよりリアルで真面目な話が今の人は好きなのではないか?僕は「宇宙の戦士」を茶化す方に賛成だけどね。

 またマニアックなことを語ってしまった・・・

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